個人事業主にとって、生命保険料の税務上の取り扱いは複雑で分かりにくい部分が多く、「保険料は経費になるのか?」「どんな保険なら経費計上できるのか?」といった疑問を抱える方も少なくありません。適切な税務処理を行うためには、経費として認められる保険とそうでない保険の違いや、経費にできない場合の代替手段である所得控除制度について正しく理解することが重要です。本記事では、個人事業主が知っておくべき生命保険料の経費計上ルールから、所得控除の活用方法、さらには従業員向け保険や損害保険の取り扱いまで、具体例を交えながら分かりやすく解説していきます。
1. 個人事業主の生命保険料は経費にできる?できない?基本ルールを解説

個人事業主にとって、生命保険は事業のリスク管理に寄与する大切な手段ですが、生命保険料を経費として計上する際にはいくつかの注意点があります。本記事では、生命保険料に関連する経費計上の基本ルールについて詳しく解説します。
生命保険料は経費に計上できない
基本的に、個人事業主が自身に契約した生命保険の保険料は、経費として認められません。この理由は、生命保険料が事業の運営に直接結びつかない支出とされるからです。生命保険は個人の生活を保障するためのものであり、事業活動に欠かせない経費には該当しないのです。
経費計上の例外
とはいえ、特定の条件下では生命保険料を経費として計上できる場合があります。以下の条件に当てはまるケースでは、経費として認められる可能性があるため、確認しておきましょう。
- 従業員を対象とした生命保険
従業員が受取人となる生命保険の保険料は、福利厚生費として計上できるため、従業員向けの生命保険に関する支出は事業経費として認められます。
生命保険料控除制度
経費として計上できない場合でも、個人事業主は生命保険料控除制度を活用できます。この制度を利用することで、支払った保険料に応じた金額を所得から控除できるため、税負担を軽減することが可能です。ただし、控除には上限が設けられているため、しっかりと把握しておくことが重要です。
生命保険料控除の4つの種類
- 一般生命保険料控除
- 介護医療保険料控除
- 個人年金保険料控除
- 災害死亡保険料控除
これらの控除を適切に活用することで、税負担を減らすことができるため、正確な知識を持って利用することが非常に大切です。
法人化の検討
生命保険を経費として計上したい場合、一つの選択肢として法人化を考えることが有効です。法人化することで、法人専用の生命保険に加入でき、その保険料を損金として計上できることもあります。
以上の内容が、個人事業主が考慮すべき生命保険料に関する経費計上の基本ルールです。事業運営を円滑に進めるためにも、しっかりと理解しておくことが求められます。
2. 経費計上できる保険とできない保険の違いを押さえよう

個人事業主が経費として計上できる保険料には、厳密な基準があります。このパートでは、経費にできる保険とできない保険の基本的な違いについて詳しく解説します。
経費計上できる保険の基準
経費に計上できる保険は、事業の運営に直接関連していることが求められます。具体的には以下のような保険が該当します:
- 損害保険:自動車保険や火災保険など、事業用資産を保護するための保険。
- 責任保険:業務上の事故に対して補償を提供する保険。たとえば、取引先に対する賠償責任をカバーする保険などです。
- 傷害保険:事業中の事故による怪我や疾病に対して補償を行う保険。従業員に対する福祉の一環としても利用されます。
これらの保険は、事業運営のために必要なものであり、その費用は経費として認められます。
経費計上できない保険の事例
一方で、経費として計上できない保険も存在します。以下にその具体例を挙げます:
- 個人の生命保険:一般的に個人事業主が自身のためにかける生命保険は経費として認められません。これは、福利厚生費と見なされ、事業関連性が薄いと判断されるためです。
- 従業員の福利厚生目的の保険:従業員の福利厚生の一環であっても、経営者自身や専従者に対する保険料は経費として計上できません。これにより、個人事業主が経費を不当に増やすことを防いでいます。
- プライベートにかかる保険:たとえば、個人の趣味や生活に関連する保険は、業務とは無関係であるため、経費には計上できません。
経費計上のポイント
経費として計上する際には、適切な書類や帳簿の管理が必要です。保険の契約書や支払い明細を保管し、経費として認められるかどうかを慎重に確認することが大切です。また、保険の内容によっては、税務上の取り扱いが異なる場合もあるため、専門家に相談することも有効です。
経費に計上できるかどうかの判断は、税務署の見解に依存する部分が大きいですが、一般的には「事業に直接関連しているか」が重要なポイントです。このため、各保険契約について、細かく確認することが必要です。
3. 生命保険料を経費にできない代わりに使える「所得控除」とは

個人事業主が生命保険を利用する場合、通常はその支払った保険料を経費として計上することはできません。しかし、この状況は税金負担を軽減する「所得控除」の活用の好機とも言えます。適切にこの控除を利用することで、納税額を抑えることが可能です。
所得控除の基本
所得控除は、納税者自身の総収入から一定の金額を差し引くことができる仕組みです。この減額により、課税対象となる所得が減少し、最終的な納税額も軽減されます。所得控除に関する重要なポイントは以下の通りです:
- 直接的な減税ではなく間接的な効果:これは、所得税や住民税が直ちに減るわけではなく、控除が適用されることで課税所得そのものが減少し、結果として納税額が少なくなる仕組みです。
- 多様な控除の選択肢:日本には、さまざまな所得控除が存在し、その中に生命保険料控除も含まれています。
生命保険料控除の概要
生命保険料控除は、個人が支払った生命保険の保険料に対して特定の条件を満たす場合に適用されます。控除の金額は、保険契約の種類によって異なります。
旧契約と新契約の違い
- 旧契約(2011年12月31日以前に契約されたもの):この場合、控除額は請求した保険料によって変動します。
- 新契約(2012年1月1日以降に契約されたもの):新しい規則に基づいて、控除額が設定され、詳細が異なります。
所得控除を受けるための注意点
所得控除を利用する際には、いくつかの注意が必要です:
- 確定申告の必須性:個人事業主は、毎年の確定申告で控除を申請する必要がありますので、関係書類をしっかりと整えておくことが重要です。
- 控除の上限:生命保険料控除には上限があり、実際に支払った金額に基づいてその控除額を計算する必要があります。
控除額の計算方法
具体的な控除額は、支払った保険料の金額に依存し、以下の基準で計算されます:
| 年間保険料 | 控除額の詳細 |
|---|---|
| 20,000円以下 | 支払った額の全額 |
| 20,000円超〜40,000円以下 | 支払った額 × 1/2 + 10,000円 |
| 40,000円超〜80,000円以下 | 支払った額 × 1/4 + 20,000円 |
| 80,000円超 | 一律40,000円 |
このように、生命保険料は経費として直接計上することはできませんが、所得控除を活用すれば、税負担を大幅に軽減する助けとなります。個人事業主にとって、この知識は今後の財政計画に非常に役立つでしょう。
4. 従業員の生命保険や事業用の損害保険は経費になるケースも

個人事業主にとって、生命保険料を経費に計上できる選択肢はさほど多くありませんが、特定の条件を満たす場合、経費として取り入れられる保険があります。その中でも、従業員向けの生命保険や事業関連の損害保険は、経費として認められるケースが多いです。
従業員の生命保険
従業員のために加入する生命保険については、一定の条件をクリアすれば経費として計上できます。以下に具体例を挙げます。
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掛け捨てタイプの保険: 定期保険のような掛け捨て型保険では、被保険者が従業員である場合に、生命保険料を「福利厚生費」として計上することができます。この場合、契約者は事業主となり、受取人として従業員の家族または事業主本人を指定できます。
-
受取人の設定: 受取人を従業員の家族に設定することで、遺族に対する福利厚生の意義が一層明確になります。ただし、受取人が事業主の場合は、保険金が事業収入として扱われるため、税務上の注意が必要です。
事業用の損害保険
業務に関連した損害保険も経費として認められる場合があります。具体的な例を以下に示します。
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火災保険: 事業用の建物や設備を守るため、火災保険は非常に重要です。もし事務所や店舗が火災に見舞われた際のリスクを軽減するため、経費として計上することが可能です。
-
自動車保険: 業務用の車両の自動車保険料も経費として認められます。業務利用が証明できる場合、損害保険料または車両費として計上できます。
-
傷害保険: 業務中に起こり得る事故に備え、従業員や取引先をカバーする傷害保険も経費計上が可能です。これは、業務上のリスク管理において非常に重要な要素です。
注意が必要な点
経費計上の際、被保険者や契約内容を明確にし、事業との関連性を証明することが重要です。特に、個人と事業用で共有する保険の場合、家事按分が必要となるため、正確な按分割合を定めることが大切です。
- 按分が求められる保険: 例えば、自宅兼事務所の火災保険は、自宅部分を除いた事業利用の割合のみを経費として計上する必要があります。
このように、従業員の生命保険や事業用の損害保険は、広告の条件を満たせば経費として計上できますが、保険の種類や契約内容については慎重に見直すことが求められます。正しい経費処理を行うためには、十分な確認が不可欠です。
5. 保険料を経費計上する際の勘定科目と仕訳方法

個人事業主が生命保険の保険料を経費として計上する際は、正確な勘定科目を選び、適切な仕訳を行うことが極めて重要です。保険料の種類は多様であり、それぞれに応じた勘定科目を選ぶことが求められます。
主な勘定科目
以下は、個人事業主が保険料を経費に計上する際に多く使用される勘定科目です。
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保険料: ここには、一般的に掛け捨ての生命保険や損害保険の保険料が含まれます。これらは事業運営に必要不可欠な保険として認識されます。
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保険積立金: 生命保険や損害保険の契約に貯蓄機能が含まれる場合にこの勘定科目を使用します。保険料の一部が貯蓄として積み立てられていることを表します。
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損害保険料: 主に、事業に関わる施設や設備にかかる損害保険の費用を計上する際に使われる科目です。
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法定福利費: これは従業員のために支払う健康保険や雇用保険など、法律に基づいて支払う社会保険料を指します。
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事業主貸: 個人事業主が私的な目的で加入した保険の保険料は経費として認められません。事業資金からの支払いがあった場合には、この科目を使用します。
仕訳の具体例
保険料の経費計上における具体的な仕訳例を以下に記載します。
-
業務用火災保険を現金で支払った場合
– 借方: 保険料 ○○円
– 貸方: 現金 ○○円 -
自己の生命保険(事業と直接関連なし)を会社が支払ったケース
– 借方: 事業主貸 ○○円
– 貸方: 普通預金 ○○円 -
従業員用の傷害保険に対して支出した場合
– 借方: 法定福利費 ○○円
– 貸方: 普通預金 ○○円 -
解約返戻金を受け取った際(保険金の受け取り)
– 借方: 普通預金 ○○円
– 貸方: 雑収入 ○○円
注意点とポイント
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経費として認められない場合: 個人事業主が私的な目的で支払った保険料については、経費として扱うことはできません。経費計上は、必ず事業に関連する保険料に限定してください。
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家事按分の必要性: 自宅を兼用する事業用建物においては、保険料を計上する際に家事按分を行わなければなりません。使用割合に応じて、事業関連の部分を適切に記帳することが求められます。
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証拠書類の保管: 経費計上に際しては、保険証券や領収書などの証拠書類が不可欠です。正確な記録を維持するために、必要な書類は整理し、長期間保管することが重要です。
これらのポイントを踏まえ、個人事業主として生命保険の保険料を経費に計上する際は、慎重に手続きを行いましょう。
まとめ
個人事業主にとって、生命保険の保険料を適切に経費処理することは重要な課題です。一般的に個人の生命保険料は経費計上できませんが、従業員向けの保険や事業に直接関連する損害保険などは経費計上の対象となる可能性があります。また、生命保険料を経費化できない場合でも、所得控除の活用により、税負担の軽減が期待できます。このように、保険料の経費処理にはさまざまなルールがあるため、正しい知識を持って適切に対応することが事業経営にとって重要です。
よくある質問
個人事業主は生命保険料を経費として計上できますか?
個人事業主が自身のために加入した生命保険の保険料は、原則として経費として計上することはできません。しかし、従業員向けの生命保険や事業に関連する損害保険の保険料については、一定の条件の下で経費計上が可能となります。
生命保険料を経費にできない場合、何か他の方法はありますか?
生命保険料を経費として計上できない場合でも、生命保険料控除制度を活用することで、所得から一定の金額を控除することができます。これにより、税負担の軽減が期待できます。ただし、控除には上限が設けられているため、正しく申告する必要があります。
従業員の生命保険は経費に計上できますか?
従業員の生命保険に関する保険料は、一定の条件を満たせば、経費として計上することができます。具体的には、掛け捨てタイプの保険で、受取人が従業員の家族または事業主本人である場合などが該当します。
保険料を経費として計上する際の仕訳方法は?
保険料を経費として計上する際は、適切な勘定科目を選択する必要があります。例えば、業務用の損害保険料は「保険料」や「損害保険料」といった勘定科目を使用し、従業員向けの保険料は「法定福利費」などで処理します。個人の生命保険料は「事業主貸」として記録する必要があります。

