個人事業主として事業を営んでいる方の中には、家族に事業を手伝ってもらっているケースが多いのではないでしょうか。配偶者や子ども、両親などが日常的に事業に関わっているにも関わらず、その対価を適切に経費計上できていない方も少なくありません。
実は、一定の条件を満たせば、家族への給与を「専従者給与」として経費に計上することが可能です。この制度を正しく活用することで、事業の税負担を大幅に軽減できる可能性があります。
しかし、専従者給与には複雑な条件や手続きが伴うため、「何から始めればいいのか分からない」「どのような条件をクリアすべきか不安」という声をよく耳にします。間違った方法で進めてしまうと、税務調査で否認されるリスクもあるため、正確な知識が不可欠です。
そこで今回は、個人事業主の専従者給与について、基本的な仕組みから具体的な手続き方法、適切な金額設定まで、実務で必要となる知識を分かりやすく解説します。この記事を読むことで、専従者給与制度を安心して活用できるようになるでしょう。
1. 個人事業主の専従者給与とは?家族への給与を経費にする方法

個人事業主の方々にとって、家族への給与を経費として計上することは、税負担を軽減するための重要な戦略となります。一般的には、家族への給与を経費として認められることは容易ではありませんが、ここでポイントになるのが「専従者給与」の制度です。この制度を活用することで、一定の条件をクリアすれば、家族への給与を経費として認めてもらえる可能性があります。
専従者給与の概要
専従者給与とは、個人事業主が家計を共にする親族に支払う給与で、定められた条件を満たす場合には経費として認められる仕組みです。この制度を適切に利用すれば、納税負担を軽減することが可能になります。
誰が「専従者」として認められるのか
「専従者」として認められるためには、「生計を一にする親族」である必要があります。具体的には、以下のような家族が対象となります:
- 配偶者
- 子ども
- 両親
- 同居している祖父母
ただし、同居していない親族でも生活費を共有している場合は対象となることがありますが、独立した生活をしている兄弟やアルバイトの学生は通常、この条件には該当しません。
専従者給与を経費にするための条件
専従者給与を経費として認められるには、以下の基本的な条件が求められます。
-
届出書の提出: 毎年、定められた届出書を必ず提出しなければなりません。提出期限は、その年の3月15日または事業開始から2か月以内です。この締切を過ぎてしまうと、経費計上が難しくなります。
-
専ら事業に従事すること: 専従者給与を受け取る家族は、事業に「専ら従事」していることが求められます。これにより、仕事内容や労働時間も評価の対象となります。
-
給与の適正金額設定: 給与については、市場の相場を基に合理的に設定する必要があります。過度に高額な給与を設定すると、税務調査で認められないリスクがあるため、注意が必要です。
-
生計を共にする親族の範囲: 対象となる親族について正確に把握し、条件を確認することが重要です。
経費計上のメリット
この専従者給与制度を利用することで、以下のような利点を得られます:
- 個人事業主の課税所得を減少させることができる。
- 所得税や住民税の負担を軽減することができる。
このように、専従者給与を上手に活用することで、事業に参加している家族と共に、経済的なメリットを享受できます。制度の運用方法や留意点については、専門家に相談することをお勧めします。
2. 青色事業専従者給与として認められる4つの条件

青色事業専従者給与を経費として正しく認めてもらうためには、いくつかの具体的な条件があります。これらの基準をしっかりと理解し、適用することで、税務署からの承認を得ることが可能になります。ここでは、青色事業専従者給与として受け入れられるために必要な重要な4つの条件を詳しく解説します。
1. 青色申告者と同一生計の配偶者または親族であること
青色事業専従者給与として認められるためには、給与を受け取る者が青色申告者と生計を一にしている配偶者や親族であるべきです。具体的には以下のポイントが重要です。
- 同居している場合、共同で生活費を負担していることが求められます。
- たとえ遠くに住んでいても、生活費や学費が送金されているならば、生計が一緒だと見なされることがあります。
2. 年齢が12月31日現在で15歳以上であること
青色事業専従者として認められるには、その年の12月31日時点で15歳以上である必要があります。以下の注意点に留意してください。
- 15歳未満の者は、この基準を満たさないため、青色事業専従者としては認められません。
- 学生が青色事業専従者としてカウントされないことが一般的ですが、業務に昼間従事できる場合には、特例として考慮されることもあります。
3. その年を通じて6ヶ月を超える期間、業務に専従していること
給与を支給する親族が青色事業専従者として認められるためには、その年の大部分において6ヶ月以上事業に関与している必要があります。単なる短期の手伝いではなく、安定して業務に携わることが求められます。
- 繁忙期だけの短期間の従事では、認められないことがあります。
- 特例的に、何らかの事情で業務に従事できなかった場合は考慮されることもあるものの、基本的には6ヶ月以上の従事が必須とされています。
4. 給与額が業務の内容に見合っていること
青色事業専従者給与として認められるためには、給与額の妥当性が重要です。以下の点に留意してください。
- 支払われる給与は、業務の内容や実際の労働時間に相応した金額でなければなりません。
- 他の同業者と比較して著しく高額な給与設定は、税務署の審査において問題視される可能性があります。
これらの条件をすべて満たすことで、青色事業専従者給与を経費として計上することが合法となります。青色申告を行う際には、これらの要件をしっかりと理解し、適切な手続きを進めることが非常に重要です。
3. 専従者給与を経費にするために必要な手続きと届出

個人事業主が家族や親族を専従者として雇用し、その給与を経費として計上するには、いくつかの必須手続きを踏む必要があります。個人事業主 専従者給与として認められるためには、以下のステップがとても重要です。
1. 青色申告の承認を得る
専従者給与を利用するための第一歩として、まず青色申告の承認を受ける必要があります。この承認がなければ、申告した給与を経費として計上することは不可能です。税務署に「所得税の青色申告承認申請書」を提出し、事前に承認を得ることが求められます。
2. 「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出する
次に、給与を支給するために「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署に提出します。この届出書は、その年の3月15日までに提出しなければなりません。期限を過ぎると、その年度の給与を経費として計上できなくなるため、注意が必要です。
届出書の記載内容
届出書には、以下の情報を正確に記載する必要があります。
– 納税者情報:氏名、住所、生年月日、職業
– 専従者の詳細:氏名、続柄、職務内容、支給額
正確に記入することで、今後の手続きがスムーズになるため、しっかり確認しましょう。
3. 給与の支払いと帳簿の管理
実際に給与を支払う際、その内容は帳簿に記録する必要があります。具体的には以下の書類が必要です。
– 給与明細の作成と保管
– 勤務時間や日数の記録(タイムカードまたはレポート)
– 給与の支払い記録(振込明細など)
これらの記録は税務調査時に必要な証明物となりますので、不十分な場合には経費として認められないリスクがあることを心に留めておくべきです。
4. 専従者給与の変更手続き
専従者の数や給与額に変更が生じた場合、所轄の税務署に変更届出書を提出することが求められます。専従者が増えたり、給与が変わった場合は、その都度適切に手続きを行うことが重要です。
これらの手続きは、個人事業主としての活動をスムーズに運営するために欠かせないものです。適切なプロセスを踏むことで、節税の効果も期待できるでしょう。
4. 専従者給与の適切な金額設定と103万円・130万円の壁

専従者給与を適切に設定する際には、いくつかの重要なポイントがあります。特に、103万円と130万円の壁は税金や社会保険料に深く関わるため、注意が必要です。
103万円の壁
専従者給与が年間103万円を超えると、専従者には所得税が課されることになります。この金額を超過すると、家計にさまざまな影響が出てくる可能性があります。
- 住民税の納付: 年収が103万円を上回ると、住民税が発生することが見込まれます。
- 社会保険負担の増加: 専従者給与がこの金額を超えると、社会保険料の支払いが必要になり、これが家計に圧力をかけることも考えられます。
これらの理由から、専従者給与は103万円未満に抑えることが戦略としては効果的です。
130万円の壁
次に、130万円の壁について考えてみましょう。この金額を超えることで、専従者は健康保険や年金の被保険者としての義務を負うことになります。
- 扶養からの脱却: 年間給与が130万円を超えることで、税制上の扶養から外れ、自身で保険料を支払う必要が出てきます。これにより、家計の状況がより厳しくなる可能性があります。
- 新たな保険料の負担: 自分で保険料を支払う必要が生じることで、扶養内にあったメリットが失われる可能性もあるため、慎重な金額設定が求められます。
適切な金額設定のためのポイント
-
業務内容と労働時間の明確化: 給与は労働に対する見返りであるため、業務内容や勤務時間を正確に把握し、妥当な金額を設定することが不可欠です。
-
市場の給与水準の確認: 同業の他社と比較して給与水準を把握し、それを基に適切な給与金額を決めることが重要です。
-
家計全体の税負担の考慮: 専従者給与による節税効果を計算し、家計全体におけるその影響を考えることで、より効率的な給与設定が実現できます。
給与設定の実務
給与の設定は法律を遵守することが基本ですが、実際の生活状況を考慮した判断も必要です。市場賃金や家庭の生活費、各種税金の影響をしっかりと理解することで、理想的な専従者給与額を導き出すことが可能です。
特に、103万円および130万円の壁を意識して専従者給与を決定することは、不必要な税負担や社会保険料の支出を抑えるために効果的です。このように、適切な金額設定は税金対策や経営効率の向上に直結する非常に重要な要素となります。
5. 源泉徴収と年末調整はどうする?専従者給与の実務対応

個人事業主が家族に対して支払う専従者給与は、一般的な給与所得同様に源泉徴収と年末調整の対象となります。そのため、これらに関する手続きと実務について正確に把握することが求められます。ここでは、専従者給与に関連する源泉徴収と年末調整の具体的な対応方法を詳述します。
源泉徴収の実務
専従者給与が発生した場合、その支給額から源泉所得税を差し引くことが必要です。この際、特に以下のポイントに留意することが重要です:
-
給与額が8万8,000円以上の場合:この金額を超える際は、源泉徴収税額表を基に源泉所得税を計算し、翌月の10日までに徴収した税金を納付しなければなりません。計算の際は、社会保険料を差し引いた後の額が基準となります。
-
給与額が8万8,000円未満の場合:この場合は、源泉徴収は不要となり、手間を省くためにこの金額を考慮して給与設定を行うのが効果的です。
年末調整の手続き
年末調整は、個人事業主が支払った給与に対する源泉徴収税額を整理し、過不足を調整するための重要な手続きです。以下の手順で進めましょう:
-
源泉徴収税の合計を集計:年間にわたって源泉徴収された金額をまとめます。
-
年間の所得税額を算出:専従者に支払った年間給与を基に、実際に納付すべき所得税を計算します。
-
精算結果の確認:源泉徴収税の合計と年間に納めるべき所得税額との間に差が出た場合、差額を調整します。多く納めた場合は還付を受け、足りない場合は追加納付が必要です。
実務上の注意点
-
記録管理の徹底:専従者給与については、給与支給額や源泉徴収額を正確に帳簿に記載することが求められます。特に「専従者給与」と明確に表記することで、他の給与と混同しないようにすることが大切です。
-
税務署への報告:年度の終わりには、所定のフォーマットで年末調整関連書類を税務署に提出する義務があります。期限内に提出するよう心掛けましょう。
-
税理士への相談:税務に関する処理や年間の給与管理に不安がある場合は、専門家である税理士に相談すると、法令を守りながら効率的な節税対策を行うことが可能になります。
このように、専従者給与に関しては、源泉徴収と年末調整を適切に実施することが必要です。正確な手続きと管理を行うことで、将来的な税務調査に対する安心感を得ることができるでしょう。
まとめ
個人事業主が家族の専従者給与を経費として計上するには、さまざまな法的要件を満たす必要があります。青色申告の承認、届出書の提出、適正な給与設定、源泉徴収と年末調整の手続きなど、細かな対応が求められます。しかし、これらの手続きを適切に行えば、税負担の軽減や家計への経済的メリットが得られます。専門家に相談しながら、制度の趣旨を理解し、自社の状況に合わせて最適な活用方法を検討することが重要です。
よくある質問
専従者給与とはどのようなものですか?
専従者給与とは、個人事業主が家計を共にする親族に支払う給与で、一定の条件を満たせば経費として認められる仕組みです。この制度を活用することで、納税負担を軽減することが可能になります。
専従者給与を経費にするための条件とは何ですか?
専従者給与を経費として認められるには、届出書の提出、専ら事業に従事すること、給与の適正金額設定、生計を共にする親族の範囲など、いくつかの基本的な条件が求められます。これらの条件をしっかりと理解し、適切に対応することが重要です。
103万円と130万円の壁とは何ですか?
103万円の壁は、専従者給与が年間103万円を超えると所得税が課されるため、この金額を超えないように注意が必要です。また、130万円の壁は、この金額を超えると専従者が健康保険や年金の被保険者となり、新たな保険料の負担が生じるため、適切な金額設定が求められます。
専従者給与の源泉徴収と年末調整はどのように行うべきですか?
専従者給与の支給に際しては、一般的な給与所得と同様に源泉徴収と年末調整の対象となります。源泉徴収では給与額に応じた税額の計算と納付が必要で、年末調整では源泉徴収額と実際の所得税額との調整を行う必要があります。これらの手続きを適切に行うことが重要です。

